「今の防水業界がこれでいいのか」「いい仕事をすること、社会的貢献をすることと、防水工事で利益をあげることは両立すべきだ」と考えるあなたに!

建物の耐久性とコンクリート

コンクリートの番人 in 北海道

昨年11月、札幌である講演会が行われた。講師は、鹿島出版会から出版して好評の「マンションの劣化・修繕の知識」、「マンション修繕・管理の実際」の著者である印藤文夫さん。山下設計を経て日本設計の取締役第一設計部長を務めた印藤さんの話は、「建物づくりの現状はとても哀れな状況にある、現代のコンクリートがいかに耐久力のない設計、或は施工で作られているか、建築にかかわる技術者の技術力が低下しているか」、というレポートから始まり、今日の社会への危機感に及び、熱弁がふるわれた。

同氏は日本設計退職後、悠々自適と思っていたところ、乞われて「北海道マンション管理組合連合会技術顧問」に就任し、日々マンションの修繕・設計監理に携わるバリバリの現役だ。

その印藤さんの、「いいコンクリートを打つ、コンクリート構造物を長く持たせよう」という熱意に共感したのが、アクリルゴム系外壁防水材のトップメーカー東亜合成の谷川伸さん。コンクリートとそのコーティングによる長寿命化に関して海外での論文発表も多い谷川氏は、日本の防水研究の第一人者である田中享二氏による「コンクリート躯体保護と防水」をメインテーマとしているウェブマガジン「ルーフネット」に対して、印藤さんをご紹介下さった。

建築修繕は「いい加減な工事」をやっても5、6年は分からない。その期間を過ぎて「おかしい」と気がついても振り出しに戻る事は出来ない。だからこそ最初に「正しい工事ができる業者」を選ぶことが大切だ。正しい工事ができる業者とは、きちんとした仕事ができる職人を抱えている会社だ。筋を曲げずに仕事に対する厳しさが分かっている業者でなければならない。安いだけが取り柄の業者は絶対に使ってはダメです。

そう訴える印藤さんから頂いた原稿を掲載します。

建物の耐久性とコンクリート

印藤先生【顔写真】-2
印藤コンサルタント 印藤文夫 氏

はじめに

昭和24年に初めて札幌に来て61年、現在85歳になります。建物の設計と監理監督をつづけてきています。本日はよい機会ですので皆様に申し上げたいのは建物造りの現状は御多分にもれず非常に哀れな状況にあるということです。

私の若い頃の建築技術者達の感触は、真面目に“もの造り携わる者達の集団”という感じでした。40歳を過ぎたリーダークラスの技術者は“もの造り”に対して、一家言のある人ばかりで、若い技術者達は他現場のそんな先輩達を訪ねて、教えを乞い、また進んで教えた時代でもあったのです。しかし今は、全く変わってしまったと感ずる日々です。そんな事で私の現場レポートのつもりで、あるがまま報告します。

コンクリートの寿命

その経過からお話しします。昭和20年代までは建築と言えば木造のことで、昭和30年になってから鉄筋コンクリートが始まりました。昭和33年位になると技術者は夢中になってコンクリートを勉強した。ご承知のように砂利と砂とセメントとあと水を入れればコンクリートになるが、その加減が非常に難しいと言うのもコンクリートの一つの特徴です。

昭和35年頃を中心に、盛んに行われた打ち放しにしても、当時は未だ生コン工場などなく、各現場が自前でコンクリート製造プラントを持ち、コンクリートを製造するという厳しい条件の中で、打ち放しコンクリートとして、いかに質の良いコンクリートを作るかを競い合い、各社は自分たちの創意工夫を他社から求められるとき、進んでこの知識を他社に提供したものです。また、後進者は先駆者の指導を進んで受けることを当然とするというように、業界が品質向上に溌剌として参加していた時代であり、思い返せば夢のように生き生きした時代でありました。

ところが、昭和40年になると、政府の方針がガラッと変わってきた。建物を造るに当たり、今のままやっていたのでは生産性があがらないと言い出した。私はこれを聞いた時、建物の質がえらいことになると心配しました。

もの造りとは、結果において世の人々の幸せの助けになる行為でなければならないのです。にも拘わらず、建物の質を棚上げして、生産量だけを云々するなど許されることではないのです。

結局、昭和43年頃から建築生産の在り方を見直す動きが業界全体の傾向となり、品質確保を置き去りにして、建築生産の量を増やす方向に転換することになったのです。

それまで、建築生産の技術管理は、総てゼネコンの責任とされていたものを、何の手当を施すことなく、下請け業者に移し替え、ゼネコンの技術者は、それ迄の2倍の工事量を受け持つことになりました。

このような経緯の中で、粗雑なコンクリート施工が横行するようになったのです。建築産業においても、日本経済の成長に伴って生産性を上げてゆく努力をすべきは当然ですが、元請、下請、曾孫請という多重構造であり、しかも、それらの役割や能力において、かならずしも信頼性の業体ではなく、下へ行くほど、寄せ集め的になりがちなのです。それにもかかわらず、なんの対策を講じることなくもなく今日に至っているのです。

コンクリートの建物造りは、先ず、混練水の少ないコンクリートを型枠内に密実に打ち込むことが基本であるが、先に記したように、1985年以降の、いわゆる日本経済のバブル崩壊以降のマンション建築構造において、あっちを向いて仕事をしていたとしか思えない粗雑さが修繕工事の際に表れてくるのです。

このような調子で仕事をやられたのでは、日本の将来は無いと思うのです。日本の建築工事に於いて、コンクリートを造るとき、水を使ってよい量は決められていて(建築学会制定標準仕様)それはコンクリート1立方メートルで185㍑まで。これが、日本の基準です。こんな緩い基準は日本と亜細亜地域の若干の国ぐらい。日本は工事のし易さを中心に水の量をきめているとしか思われないが、これでは建物を永持ちさせることが出来ない。

使用水量の多いコンクリートは、乾燥と共に収縮ひび割れが多く発生し、吸水し易い体質となるからである。

私は、北海道マンション管理組合連合会の技術顧問としてマンションの建物診断を200棟以上やりましたが、心配のない建物はありませんでした。外壁について見てみましょう。コンクリート表面をモルタルで整形し、塗装仕上げとしているものが最も多いのですが、一般に、外壁用塗料は、炭酸カルシューム粉末に着色剤を付加し、若干のアクリル樹脂などを加えて製品としたものが多く、これではコンクリートの外壁を護る化粧材としての性能は、短期間しか期待は出来ないのです。
 
コンクリートの外壁は使用水の量にもよるが、経年とともに、材の収縮や温度変化による膨張ひび割れが非常に多く発生し、コンクリート躯体内へ雨水浸入の原因となるのです。

コンクリートのひび割れは、その巾が0.2mmを超えると雨水が浸入するといわれますが、鉄筋コンクリート造の外壁がすべてモルタル仕上げである場合、雨水浸入の可能性のあるひび割れ長さは、非常に大きなものとなります。(2000年 鹿島出版会発刊 マンションの劣化・修繕の知識 印藤文夫参照)したがって、鉄筋コンクリート造の建物は、できるだけ混練水の少ないコンクリートを使うべきなのです。コンクリートは、雨水や結露水に接することによって中性化が進行し、コンクリート中の鉄筋を腐蝕から守る能力を失うことになります。したがって、コンクリートに雨水等の浸入防止を計ることこそ、建物延命の要件となるのです。

次に、コンクリートの外壁をタイル貼り仕上げとした場合の実績を見てみましょう。外壁タイル貼りには二つの方法があります。ひとつは、1985年頃迄行われていた施工法ですが、型枠をはずした後を、タイル工事の経験豊富なゼネコンの技術者が、足場上から、外壁コンクリート面の出来具合を全面検査します。タイル貼りに支障のある部分、すなわち、コンクリートのジャンカ(ざる状部分)のほか、鉄屑、木片、断熱材片等、タイルの接着を妨げるばかりでなく、躯体内へ雨水浸入の要因となる欠陥部(ひび割れ等を含む)を検査し、補修方法を決め、それらを補修してから外壁全面に対して、タイル貼りに支障がないように、下地モルタル塗を行うのです。(外壁にタイル貼りを行う場合、大切なことは、下地モルタル塗りの前に、タイル下地全面を高圧洗浄により、コンクリート面に堆積した埃などを洗い流すこと。)さらに貼り終わったタイルの目地モルタルの強度も確かなものにするために、タイル相互間の目地モルタルの大きさも決め、(目地モルタルの断面寸法は深さ9×巾8mm程度)この場合、タイルの寸法は60×108×12mm(小口平)又は60×227×12mm(2丁掛)が使われる。
貼り方は、タイルの裏面に、タイルを含めた厚さが20mmになるようにモルタルをのせ、1枚づつ貼りつける。

目地モルタルは、タイル貼りつけの進行状態に応じて目地用モルタルを充填するが、この工法の場合、目地の接着強度も施工の要点である。施工費は、㎡当たり材工共11,000円(下地モルタル塗を含まない。)程度である。

タイル貼りのもう一つの方法は、1990年頃に、某タイルメーカーにより発売されたものですが、前記のようにタイル下地全面に下地モルタルを塗るのではなく、壁の出隅、入隅と、ひら面の特に凹凸の悪い個所を、モルタルで調整するだけです。しかし外壁コンクリートの型枠を外したままの外壁面は、3~5mmの凹凸があるのが一般的です。

実際に修繕工事の際、タイル面に打診棒を当ててみて、タイルが浮いている音がする部分のタイルを剥がしてみると、タイルが接着した形跡はなく、まわりのタイルにぶら下がっていた、としか思えない部分が結構あるのですが、そのような下地に95×45×7~8mm、又は45×45×7mmのタイルを30cm角の紙に18枚(前者)、又は36枚貼り付けたものを、コンクリート表面に接着モルタルを1.5~2mm塗って貼り付け、叩き板をたたいて貼るのです。

タイルの目地も前記のタイルのように、一本づつ目地鏝を使って拵えるのではなく、タイル貼りを終えたあと全面にモルタルをまぶし塗りとし、あと、拭き取りを行うが、これでは隙間が出来るので、雨水浸入の可能性があります。タイルが浮いている部分のタイルを除去してみると、雨水が流れた跡があるにもかかわらず、タイルの剥落が発生しなかった部分が意外に多く見られます。この原因を考えてみると、タイルが巾30cmごとに貼り付けられていて、隣接するタイルの接着状態がよければ、目地モルタル接着の影響や隣接タイルの影響もあって剥落には至らないのではないか、と思われます。しかし、その実情をよく見ると、雨水浸入の影響もあるので、剥落は時間の問題ではないかと思われます。

このタイルの材工価格は、㎡当たり3,000円程度であり、現時点で外壁タイル貼りと言えば、この工法のことです。しかし、ここまで見るように、前者の施工法については、長い苦難の歴史の中で確立した施工法であり、後者の方法を同列に論ずることは出来ない。

新工法は、発売以来20年を過ぎたばかりであるが、現在外壁タイル貼りと言えば、すべてが後者を意味する状況にあり、前述したような施工の実情を顧みるとき、大きな不安を感ずるのである。

このようなとき私がいつも思い出すのは、平成元年に北九州で起きた、タイルを貼ったモルタルが落ちて、2人か3人亡くなったという事故です。それで、当時の建設省が慌てて審議会を編成して、そして答申したんです。その答申を見て、私がびっくりしたのは、やってはいけないタイル面でのシール打ち。シール材は、どんなものを使っても紫外線に曝される以上、劣化によって弾性を失いひび割れだらけになる材料ですから、外壁に使うなら深さも巾も10mmとし、品質も決め、10年毎に打ち替えるシールにすべきです。尤も、シールを打つための目地を縦・横一定の位置に造るのは、建物造りの中で最も高度な作業なのです。

建築修繕工事の際、水平化粧目地に造られている辺りを削ってみると、本当の目地は、それより2~3cm上、又は下に表れ、而も目地とは言えない精度の溝が表れているのです。

コンクリートに目地を拵えるには、躯体コンクリート打設計画作成の中で充分慎重に作成されなければならず、型枠取り外しの後で目地補修のことも考えに入れておかねばならないのです。

コンクリート建造物

コンクリート建造物の耐久性は、イギリスが140年、日本は60年(1935年頃の評価、現在での評価は50年)、アメリカは100年であり、国際的に見て日本のコンクリートは全然競争にならない。なぜそうなるのか、それはコンクリートを造るときの考え方。かっこうさえつけば何だっていい。しかし、コンクリートを長持ちさせるためには、徹底的に水を減らさなければならない。硬いコンクリートにすると隙間なく搗き固める作業が大変。ただそんなこと言っていたのでは日本の建物造りは国際的にも、全然話にならないのです。

私は、今から10数年前のこと、イギリス領で建物造りに携わった友人から、彼等のコンクリート工事の実情を聞く機会があり、大いにショックを受け、自分の現場でぜひやりたいと考えました。折よく、RC造2階建、延1,515㎡の宿舎の設計を受注したので、この建物の躯体コンクリートをイギリス式に倣い、硬練りコンクリート(混練水、コンクリート1立方メートル当たり158㍑、スランプ15cm)で、基礎から屋根までを造りあげる計画をたて、コンクリート打設に関わる従業員全員に対して2回、事前の勉強会を催し、一同、その目的並びに施工の要点を研究した。

1階の躯体コンクリート打設は午前8時開始と決め7時より型枠、配筋等の確認検査(本検査は前日)を行って予定通りコンクリート打設を開始した。ところが、日頃、軟らかいコンクリートに馴れきっている従業員達は頭では理解している積りでも、身体がついていかない。硬いコンクリートを型枠内に密実に充てんするには、作業員全員の気力、耐力、気くばりがバランスよく必要で、どれひとつ欠けても、うまくできないものである。

1週間を経過して、壁面の型枠を外してみると、1階の床面積750㎡に対して、ジャンカの発生個所が大小18ヵ所に及ぶのである。早速調査図を栫え、不良部の斫り範囲と方法を決め、エアーブロワーで清掃し、型枠を付け直して無収縮モルタル注入となるわけである。ここで起こる次の問題は、超大手業者であっても無収縮モルタル注入を任せられる協力業者がいないという場合がある。やむをえず設計者が下請探しなどということもある。

ところが、1階立ち上がりのコンクリート補修が完了して、2階立ち上がりコンクリート打設となったとき、様相が一変するのである。一同驚く程働き出し、昼食時になっても誰一人として食事に立つ者がいないのである。放っておけないので、近所のパン屋でパンを用意し、交替で立ち食いながらの作業となる。

人がその気になるとすごいもので、結局、40分以上も早く作業終了となる。このようなとき、皆のやることを見ていてまったく不安を感ずることがないのである。やがて時期が来て、柱、壁の型枠をはずしてみると、小さなジャンカが一ヶ所だけ。コールドジョイントも全く認められず見事な成果となったのである。立ち上がりの2回目で、このように出来たことでもう後戻りはしない。

担当業者のリーダーが「これが本当のコンクリート打ちだもな」と、つくづく言う。設計監理者の任務の一つは、このように工事関係者が、プロとしてその気になって仕事をするよう影響を与えることにあるのであって、工事の質の確保などは、施工者の責任である、とするのは一方的に過ぎるのではないか。

設計監理者の業務

建物設計監理者の業務とは、設計が完了する迄ではなくその建物が完成して、そこに建主の新しい生活が根付くまでのことであり、設計が完了しただけでは精々4割、実は、これから先が監理業務と言う大仕事なのである。

一例をあげれば、前述したように、躯体コンクリートは使用する硬さによってコンクリート打設要領が異なるので、設計者は設計書に於いて使用するコンクリートの硬さ(コンクリート1立方メートル当たりの水量、セメント量、スランプ値)について記載すべきであり、これに基づいてコンクリート打設に関わる施工業者の勉強会が実施出来るのである。

しかし乍ら、硬練りコンクリートの打設とは気力、体力、気くばり挙げての重労働であるから、机上の勉強だけでは解ったつもりでも、実際はなかなか理解が出来ない。

従って前記に見るように1回目は失敗。2回目になって漸く成功するのである。設計監理者の仕事とは、このように綺麗ごとではなくて建物が本当に出来る迄、片時も気の安まる時などない職業なのである。

おわりに

日本の建物用コンクリートが、どのような経緯をへて、混練水の多いコンクリートになってしまったのか、今となっては明らかにすることは出来ないが、今から40数年以前に日本建築学会に於いて、鉄筋コンクリート標準仕様書(JASS5)が制定され、鉄筋コンクリート1立方メートル当たりの単位水量は185㍑までと決められ、それ以来、我が国の建物用コンクリートに使用される水量の実情は185㍑前後(コンクリート1立方メートル当たり)となって今日に至っている。

コンクリートはその使用水量が多いほど、発生するひび割れ量が多く、紫外線や雨水浸入による影響も増加するので、建物の寿命を延ばすには、出来るだけ使用水量を減らし、ひび割れ発生を極力抑制する努力が必要である。

日本外壁防水工業会(NBK)谷川 伸会長(東亜合成㈱)による略歴紹介

印藤先生は、1925年に北海道士別市にお生まれになり、名寄中学を経てと横浜工業専門学校建築学科(現横浜国立大学)を卒業されました。皆様方ご存じのように、大手の山下設計(旧:山下寿郎事務所)に入社、その後、日本設計に移り取締役第一建築設計部長の要職を経ております。なお北海道銀行本店、全日空ホテル、ホクレン共済連ビルは印藤氏の作品です。その後、北海道の有志の方々からの要望により、北海道札幌にて独立されて、一級建築士事務所・印藤建築コンサルタントを開設され、現在に至っております。印藤先生には幾つかの著作があり、2000年には、鹿島出版会から「これだけは知っておきたい」シリーズ、「マンションの劣化・修繕の知識」を書かれております。それから、皆様方ご存知のように、2008年には、同じく鹿島出版会から「マンション修繕・管理の実際」を出されております。
《尊敬する人》両親
《座右言》「仕事をする」とは他人の「幸せな生活の手伝いをする」ことである。

2011/07/31(日) 00:00:09|躯体保護と混凝土|

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