民家研究における伊藤ていじの位置
民家研究における伊藤ていじの位置
二川民家写真のコラボ相手・伊藤ていじの立ち位置
土本俊和氏がパナソニック汐留ミュージアムで講演。
1957年から59年にかけて発行された『日本の民家』全10巻は、日本が国際的な経済発展に向けて飛躍しようとしていた頃に、あえて民家の最期の美しさにカメラを向けて、世間を瞠目させた。大地とつながる民家の力強さ、そしてそこに蓄積された民衆の働きと知恵をとらえた280点のモノクロ写真は、現在、国際的に高く評価される二川幸夫が20歳前後に撮影したものである。その中から選び抜かれた作品70点が、東京汐留のパナソニック汐留ミュージアムで展示されている。写真に添えられた文章は当時新鋭の建築史家、伊藤ていじ(1922-2010)が著した。
日本の民家研究のなかで、実証的、芸術的、思想的な側面で独自の体系を築いた建築史家・伊藤ていじ。その再評価を2月23日(土)13:30~15:00土本俊和さん(信州大学工学部教授)が同ミュージアムの講演会で試みた。
1957年に発表された二川幸夫とのコラボ作品「日本の民家」から6年後、伊藤ていじは1963年「民家は生きてきた」を発刊する。その書名は「民家は生きている」ではない。なぜ「生きてきた」なのか。その答えの一端を土本さんは、伊藤が白川郷の合掌造りに加えた解説の中に求める。
伊藤は
白川郷の合掌造は封建制の重圧と山間僻地の低い生産力のもとに生まれた悲劇の民家形態。合掌造りは滅びなければならないし、また滅びつつある。しかしーーー壮大な白川農民の記念碑として、高く位置づけることができるだろうし、また敬愛の心をもって保存しなければならないと思う。(「民家は生きてきた」より)
と書いている。
白川郷の合掌造は滅びなければならない、そして保存しなければならない。この対立を背負った力の表現を伊藤ていじは「生きている」ではなく「生きてきた」というタイトルで表現したかったのではないか、と土本さんはいう。
土本俊和つちもととしかず 信州大学工学部建築学科教授
1988、東京大学、工学系研究科、建築学専攻、修了
- 専門分野:
日本の中近世都市の都市形態史的研究、日本の伝統的建造物の保存・再生・活用、都市変容における古いものと新しいものとの統合を目的とした建築設計および都市設計
研究分野建築史(都市形態史、民家史、建築保存再生論、歴史を活かした町づくり)
- 現在の研究課題:
都市形態の生成過程に関する研究(建物先行型と地割先行型)
近世都市の成立過程に関する形態史的研究(京都、奈良、松本、松代、善光寺門前、ロンドン、全州など)
近代都市の成立過程に関する研究(廃物毀釈の都市計画的位置など)
民家の成立過程に関する研究(掘立棟持柱祖型論)
伝統的建造物の保存技術に関する調査と記録(「棟柱」の編集・発行)
都市変容における古いものと新しいものの統合を目的とした建築設計および都市設計
展示会場構成は藤本壮介。世界をうならせた写真と渾身の解説、さらに旬の建築家による会場構成。三つ巴の展示は見応えあります。
- 開館期間:2013年1月12日(土)~3月24日(日)
- 開館時間:午前10時より午後6時まで(入館は午後5時30分まで)
- 休館日:毎週水曜日
- 入館料:一般 700円、大学生 500円、中・高校生 200円、小学生以下 無料
- 主催:パナソニック汐留ミュージアム、日本経済新聞社
- 会場構成:藤本荘介
- 後援:一般社団法人日本建築学会、社団法人日本建築家協会、港区教育委員会
2013/03/05(火)08:00:42|歴史的建物を守る|