漏水が止まれば世界遺産に?
漏水が止まれば世界遺産に?
世界遺産になれるかもしれない、中銀カプセルマンション、
保存団体が書籍出版
世界が注目するメタボ建築保存の決め手は漏水対策
「中銀カプセルタワービル」:戦後復興から高度経済成長期へ移行した1960年代、日本で発祥した建築運動「メタボリズム」が世界へと広まった。運動の発端は、1960年の〈世界デザイン会議〉で丹下健三が提唱したメタボリズム思想。「メタボリズム」という言葉は生物学用語で 「新陳代謝」を意味している。“生き物が環境にすばやく適応しながら次々と姿を変え増殖していくのと同様に、建築や都市も有機的にデザインされるべきである”というものだった。
中銀カプセルマンションこと「中銀カプセルタワービル」。昭和47年(1972年)竣工。黒川紀章の初期の代表作で、当時世界的に話題になった「メタボリズム建築運動」の世界初の実用建築。
規模・構造:SRC造、一部S造、地上11階~13階地下1階
建築面積:429.51㎡
延床面積:3091.23㎡ 竣工:1972年(昭和47年)
1の目サイコロがたくさん積み重なっている。西洋人にはドラム式の洗濯機に見えるそうだ。「幹」に取り付けられた床面積10平方メートルの立方体ユニットを交換することで、建物としては新陳代謝を繰り返すことができる。残念ながら、2007年に管理組合の議決で解体が決定したのだが、実行されないまま時効になり、「保存か建て替えか」振り出しに戻った格好だった。しかし今回の保存・再生プロジェクトの成功により、世界初の実用メタボリズム建築が、メタボであることを実証できる可能性が出てきた。
この建物は、ユニット間の隙間が狭く、作業スペースが取れない、ユニット貫通部の複雑配管などにより、防水的にはアンタッチャブルな建物として有名だった。ルーフネットでは、「営業的には誰も手を出したがらない物件ではあるが、今回の保存運動に刺激を受けて、『世界初の試みに手を貸してやろう』と、防水アンタッチャブルに挑戦する猛者の出現に期待する」とアピールしていた。
クラウドファンディングで集めた費用でこのほど発行された本から、漏水に関する部分を集めた。漏水を承知で入居する人、ミニマル生活を楽しむ人、各種トラブル込みで建物を愛するという価値観が生まれている。
- 2005年に購入した50代カップル:43年経っているこのカプセルが好き。カプセルを外して雨漏りを直して、また取り付けて欲しい。みんなに祝福されながら保存再生されるといいな。
- 50代、設計者:カプセルにいて、ポタッとくる雨音に敏感になった。雨漏りがユニットバスの中で始まり、外に水が回り、天井や壁にシミができる。ある朝プリンターに雨漏りしていた。
- 40代、脳科学者、女性:古い建物にトラブルはつきもの。カプセルを交換したいときに頼めるシステムを作りたいですね。それが本当のメタボリズムですし。
- 30代、会社員:雨の日はゴミ箱をセットして水を受ける。雨漏りも気にしない。覚悟の上で入ったので大丈夫。お湯が出ない、雨漏りする、は普通ではありえない。僕らはいいけど、補修しても直らないカプセルを、最初のコンセプト通り取り替えて欲しいです。自分のところだけを保全するのではなく、全部がよい状態になったらいいなと思う。
- 扱い不動産会社社長:カプセルを紹介するときは、雨漏り、お湯・セントラルヒーティングが止まっている、などを話します。雨漏りが解消されれば物件価値は上がります。入居者はシートをかけたり、パテで埋めたり、漏った雨を浴室に流すなどして住んでいる。
- インタビュー:住人はリノベーションを楽しんでいるが、雨漏りは微妙。雨漏りを直すのは高度な技術を要する。
- 不動産会社:集合住宅が100年持つわけはないが、住人の活躍ぶりを見て「ここまで来たら持てるところまで、持たせた方がいいんじゃないかと思います」
- Q&A:天井や換気口から漏水しています。当保存・再生プロジェクトでは、早急に大規模改修を実施するよう管理組合に働きかけている。
2015/11/19(木) 00:00:01|歴史的建物を守る|