「今の防水業界がこれでいいのか」「いい仕事をすること、社会的貢献をすることと、防水工事で利益をあげることは両立すべきだ」と考えるあなたに!

中島路可教室「聖書の中の化学と生物」

中島路可教室「聖書の中の化学と生物」

ルカ先生に聞いた「聖書とアスファルト」の話

鳥取大学名誉教授で理学博士。「独創的な視点からの化学教育と振興への貢献」により日本化学会・化学教育賞を受賞している中島路可(るか)先生に聞きました。

中島路可(るか)先生

2012年2月27日、名古屋駅のマリオットホテルで待ち合わせました。先生の目印は、向かって右奥におかれた赤茶色のリュック。古本屋めぐりにこのリュックは欠かせないそうです。

聖書の中には、アスファルトに関連する記事として、ノアの箱舟と、バベルの塔、幼いモーセをのせたパピルスの小舟、について書かれている。

創世記6章14節「あなたは、いとすぎの木で箱舟を造り、箱舟の中にへやを設け、アスファルトでそのうちそとを塗りなさい」。

また、出エジプト記2章3節「…パピルスで編んだかごを取り、それにアスファルトと樹脂とを塗って、子をその中に入れ、これをナイル川の岸の葦の中においた」。

このアスファルトは石油のなかの揮発性の成分がなくなって高沸点の部分が残ったもので、昔から舟の水もれをとめるシーリング剤や、燃料として用いられていたのである。古代における石油関連物の利用は思ったより多い。

バベルの塔の構築にアスファルトが接着の目的に使われたり、漆喰(しっくい)の代りにアスファルトを用いた。(創11・3)

エジプトのミイラの製作にアスファルトを湊ませた布が防腐の目的で使われている。ローマのポンペイの遺跡では、路の舗装にアスファルトが使われていた。「聖書の中の化学と生物」より。

中島先生は昭和61年9月から教区の教会の月報に「聖書の中の化学と生物」に関して100回にわたって書かれた話は、その後単行本になっている。この中から、ルーフネット向きの項目を選び出し、先生の注釈をいただきながら紹介して行きます。

2012/02/28(火) 10:27:54|「聖書と防水」3部作|

中島路可(なかじまるか)

「聖書の植物物語」、「聖書の中の科学」の著者

中島路可先生

教会の会報に100回連載「聖書の中の化学と生物」を連載。このうち植物に関するテーマは「聖書の植物物語」として2000年4月、キリスト教系出版社ミルトス(243ページ)から出版されたが現在絶版。その他のテーマは、1999年、裳華房より「ポピュラー・サイエンス」シリーズの202巻「聖書の中の科学」(四六版218ページ。1,680円)として出版されている。

中島路可さんの略歴は以下の通り。

【略歴】
1955年 大阪市立大学理工学部卒業。
1956年 同大学大学院中退、神戸大学理学部助手。
1969年 京都大学工学部助教授。
1976年 鳥取大学工学部教授。
1995年 同大学退官、墨総合研究所所長となり現在に至る。(理学博士)

1993年 「独創的な視点からの科学教育の啓蒙と振興への貢献」により、日本化学会化学教育賞受賞。

一宮聖光教会、大阪聖愛教会、大阪聖ヨハネ教会、京都桃山基督教会などを経て、1995年より母教会の日本聖公会中部教区一宮聖光教会に戻る。現在、 同教会信徒。

趣味は集書、切手収集、聖書ヘブライ語学習(「ギリシャ語とラテン語は今後の目標」)等々多岐にわたる、一般の人々には縁遠く感じられる聖書やキリスト教を、日常生活との意外な接点から紹介する軽妙な話や文章のファンが多い。

化学者としての系譜、として「世界の化学者データベース」ではこう以下のように位置づけされている。
http://www.chem-station.com/chemist-db/archives/2009/07/post-4.php

聖書の植物物語

聖書の植物物語253ページ ミルトス、2000年

聖書には多くの植物が登場し、聖書の人物や言葉と深い関わりがある。これらの植物について少しでも知っていると、聖書の理解に大いに役に立つ。本書は、聖書に登場する53種の植物を選び、古今東西の興味深い話を紹介する。 たとえばアロエ、いちじく、オリーブ、苦よもぎ、リンゴ…。聖書には多くの植物が登場し、聖書の人物や言葉と深い関わりがある。聖書に出てくる53種の植物を選び、聖書の理解に役立つエピソードを紹介する。もちろんモーセを救ったアスファルトで防水されたパピルスも。

聖書の中の科学
「聖書の中の科学」(218ページ)裳華房(ポピュラー・サイエンス202)

項目は、①自然・地理・鉱物 ②食べ物 ③動物 ④生活・医療・その他
このうち①自然・地理・鉱物 では

  • 死海-ヨルダン川の水がここで濃縮 濃い塩分に
  • 風-神の息,自然の恵み 聖書に85回以上の引用
  • 火-神のやさしさと怒りを示す重要な概念 聖書に400回
  • 水-生命の存在,維持への神の摂理 聖書には400件以上の引用
  • 土-土は生命の源 「アダム(人)」の語源も
  • 地震-死海地溝帯は地震の巣 聖書には17個所で登場
  • 金-富と永遠の象徴 聖書に引用390回
  • 石油-ノアの箱舟にアスファルト ナフサの語源も旧約外典に
  • 鉄-ペリシテ人の製鉄独占をダビデが崩し優位奪う
  • ガラス-金にも匹敵の高価なもの 起源はカルメル山のふもと
  • 琥珀-化石化した樹脂 聖書では「琥珀色の金属」のこと

2012/03/06(火) 20:29:00| ひと|

中島路可教室「聖書の中の化学と生物」②

画像の説明

いよいよ始まった「中島路可教室」。化学が専門の中島先生が聖書の中に出てくる石油や水、塩など化学物質に興味をもつのは当然として、植物に魅かれたのはなぜか…。川口基督教会報に謎解きのヒントになる良いものがありました。

1986年の連載開始から半分、50回目の記事「連載50回を記念して」の中で、ご自分が「聖書の中の化学と生物」研究を始めた経緯を述べられています。

中島路可先生は1969年 京都大学工学部助教授就任のあと、1976年に鳥取大学に教授として赴任するわけですが、長年住み慣れた関西を離れて鳥取に移るにあたり、地域と関わりのある研究を目指し、鳥取に生育する植物の化学成分を考えたそうです。最初の勘違い(本人談)は「鳥取といえば砂丘。砂丘→砂漠とショートしてしまい、砂漠なら中近東、中近東ならイスラエル、と連想の輪が広がってしまった。」と書かれています。さらに「『「聖書の植物」とすると専門家の領域になってしまうが『聖書と植物』とすれば素人の勝手な議論でもよかろう、多少の脱線も差し支えない…」と考えたという訳だそうです。

聖書の中の化学と生物より  「石油」

ノアの箱舟にアスファルト
ナフサの語源も旧約外典に

中島路可

今日の我々の社会はもはや石油無しでは考えられなくなっている。私達の身の周りには形を変えた石油製品で満ちあふれている。農業ですら、農作業のエネルギーとしてガソリン、野菜作りのためのビニール・ハウス等々私達は石油を食べているといってもよい。

聖書のなかにも石油があらわれる。新聞の経済欄などに「石油ナフサ」などという言葉が使われているのを御存知だと思う。この「ナフサ」の語源を示す言葉は、旧約外典マカバイ記二、1章19~36節に求めることが出来る。新共同訳には外典が旧約続篇として入っているので、ここから引用して見よう。ヘネミヤが神殿の清めの祭りのために灯火の祭を祝ったときのことと聖書は記している。

我々の先祖がペルシアに捕らわれて行ったとき、当時の敬虔な祭司たちは祭壇の聖火を持ち出し、それを、水のかれたある井戸の中にひそかに隠したが、………それからかなりの歳月がたち、……ペルシア王からユダヤ王へ派遣されたネヘミヤが、その火を手に入れるため、それを隠した祭司たちの子孫をそこに送った。ところが彼らは火ではなく、粘りけのある水を見つけたと報告してきた。そこで、ネヘミヤは、それをくんで来るように命じた。………ネヘミヤはその水を、まきとその上のいけにえに振りかけるように、祭司たちに言いつけた。しばらくして、雲に隠れていた太陽が照りだすと、大きな炎が噴き上がったので、人々は非常に驚いた。………祭司たちが火を隠した場所で発見された水で、ネヘミヤたちがいけにえを清めたということがペルシア王に伝わると、………王はこの出来事を確認したうえで、その場所に垣を巡らし、そこを聖域とした。………ネヘミヤたちはこれを『ネヘタル』と名付けたが、一般には『ネフタイ』と呼ばれている。『ネヘタル』とは、清めを意味する言葉である。

エルサレム・バイブルの英語訳では「ネフタイ」はnaphthaと記されており、明解である。Naphthaはペルシア語のナフトNaft(土から滲み出たものを意味する)から由来している。私達が子供の頃からなれ親んだアラジンの魔法のランプは、中近東が古くから石油とのかかわりがあったことを示す。古代ペルシアの宗教であった拝火教(ゾロアスター教)は中近東の石油と無関係ではないように思う。この他、石油に関連する記事は、ノアの箱舟と、幼いモーセをのせたパピルスの小舟がそれである。創世記6章14節「あなたは、いとすぎの木で箱舟を造り、箱舟の中にへやを設け、アスファルトでそのうちそとを塗りなさい」。また、出エジプト記2章3節「……パピルスで編んだかごを取り、それにアスファルトと樹脂とを塗って、子をその中に入れ、これをナイル川の岸の葦の中においた」

このアスファルトは石油のなかの揮発性の成分がなくなって高沸点の部分が残ったもので、昔から舟の水もれをとめるシーリング剤や、燃料として用いられていたのである。古代における石油関連物の利用は思ったより多い。バベルの塔の構築にアスファルトが接着の目的で使われたり(しっくいの代りにアスファルトを用いた(創11・3))エジプトのミイラの製作にアスファルトを滲ませた布が防腐の目的で使われている。ローマのポンペイの遺跡では、路の舗装にアスファルトが使われていた。

石油の成因については、古生物が地球内部の圧力と熱とで分解して出来たと考えられるようになって来ており、カナダ産のオイルサンドから生物由来を裏付ける有機物が、まだ例は多くないがとり出されている。
(鳥取大教授)

聖書中の化学と生物(16)川口基督教会報昭和63年5月29日号より

中島路可教室「聖書の中の化学と生物」③

ノアの方舟の模型
聖書教会が販売するイスラエル製ノアの方舟模型キット

中島路可先生は1993年に 「独創的な視点からの科学教育の啓蒙と振興への貢献」により、日本化学会化学教育賞を受賞されました。今でも全国の小中学校や親子などを対象にボランティアの出張授業、講演などをされています。一般には縁遠く感じられる聖書やキリスト教を、日常生活との意外な接点から紹介する軽妙な語り口、分かり易さは永年のこんな経験が生きているのかもしれません。

川口基督教会から依頼されその会報に100回にわたって「聖書の中の化学と生物」を連載し、これが一連の記事のオリジナルです。このうち植物に関するテーマは「聖書の植物物語」として2000年4月、キリスト教系出版社ミルトスから出版されましたが、現在は絶版。内容はオリジナルとほぼ同じで、植物図鑑と対比されています。その他のテーマは、1999年、裳華房より「聖書の中の科学」として出版されています。しかしこちらは、全体をコンパクトに纏めるため、内容はかなり圧縮されています。
現在ルーフネットでは、オリジナルである川口基督教会の掲載原稿をベースに、一部単行本の表現を取り入れながら掲載しています。

中島先生の趣味は集書、切手収集、聖書ヘブライ語学習など。
一宮聖光教会、大阪聖愛教会、大阪聖ヨハネ教会、京都桃山基督教会などを経て、1995年より母教会の日本聖公会中部教区一宮聖光教会に戻り、現在、 同教会信徒。

聖書の中の化学と生物より  「パピルス」

紙(ペーパー)の語源  ナイル川でモーセの生命を救う

中島路可

今日の我々の生活のなかで、もは紙のない生活はかんがえられなくなっているといってよい。紙は文明のバロメーターといわれ、文明の歴史のなかで最も重要な発明の一つである。

今日の紙の原型は中国の後漢の人、蔡倫(さいりん)によるとされており、西暦105年頃であるとするのが通説であった。1979年12月、中国陜西省での発掘で更に古い紙が発見され、通説よりも150年くらいさかのぼることになった。

紙のない時代には、石や粘土板、貝がら、骨、象牙、鉛板、獣皮、ヤシの葉、木片、布などが記録や伝達の媒体として利用されてきた。しかし、紙の軽さ、丈夫さ、持ち運び易さは、ちょっとこれに優るものはない。

英語で紙をペーパーと呼ぶことは誰も知っている。ペーパーの語源は、パピルスに由来し、パピルスといえばナイル川がすぐ連想される。パピルスはエジプトを代表する植物の一つである。

パピルスが聖書にあらわれるのは出エジプト記2章3節、舞台はナイル川のほとりである。「……パピルスで編んだかごを取り、それにアスファルトと樹脂とを塗って、子をその中へ入れ、これをナイル川の岸の葦(あし)のなかにおいた……」。ヘブルびとに男の子が生まれたならば、みなナイル川に投げ込め(同1章22節)というエジプト王パロの命令で生命を奪われる直前、川浴びにやってきたパロの娘によってパピルスのしげみから救い上げられ、王女の子として育てられる。この男子こそ、やがて成人したのち、エジプトに捕らわれていたイスラエルの民を脱出させる指導者となったモーセである。

かごに編まれて、モーセの命を救う役割を果たしたパピルスは、古代エジプトの人々にとっては重要な生活資源植物であって、花穂は神殿の儀式に、茎は編んで網、扇、サンダル、マット、箱、びんの栓に、パピルスの茎の下部の髄は食料にもなる。茎をサトウキビのように噛んで汁だけ吸ってはきだす。私もかじってみたが、サトウキビほどではないが、うすい甘味があった。しかし、うまいものではない。

パピルスの茎を使って船も作られていた。イザヤ書一八章二節には「ああ、エチオピアの川々のかなたなる、ぶんぶん羽音のする国、この国は葦の船をうかべ、ナイル川によって使者をつかわす」とある。「葦の船」とはパピルス船のことである。このパピルスの船を再現した人がいる。ノルウェーのヘイルダールが1970年、パピルスの船で大西洋横断を試み、二度目に成功したRa(ラー)二世号を記憶している人もいるであろう。ちなみに「Ra(ラー)」とはエジプトの太陽の名前に由来している。

パピルス語
(図をクリックすると拡大します)

パピルスが文明にその名をとどめるのは、パピルスをその語源とするペーパーによってである。表に示したように、紙を示す単語は多くの西洋語においてパピルスに由来していることがわかる。パピルス紙は、紙の定義からは紙ではない。紙は繊維を水に懸濁させ、水ごしして、薄く平らにからみ合わせて作ったものである。定義はともかく、パピルス紙をどうやって作っていたのかはっきりしない。

ローマの軍人であり学者でもあった大プリニウス(23~79年)の博物誌13巻に記述がある。「パピルス」紙はパピルスの茎の髄を薄く裂き、薄片とし、これをナイル川の濁り水に浸し、次いで薄皮をならべ圧搾してから乾燥する。このままではざらざらして書きにくいので、象牙や貝がらで表面をこすり平滑にする。薄片がくっつくのはナイル川の水の泥の粘性説、パピルスの中に含まれる粘性物質説、あるいは別途糊料を使用する等々の説がある。

濁ったナイル川の水に浸すことに重要な意味があるとすると、川水にいる微生物が繁殖したときに生成する多糖類が一種の「のり」の役目を果たしているとは考えられないだろうか。汚水を数日間放置すると、バケツの内側がぬるりとする。いわゆる水の華である。そのぬるぬるが接着剤となっているとすると、なんとなく納得できる。

1983年2月、京都で開かれた「国際紙会議」にエジプトのパピルス研究所のラグブ博士が来日し、製作実演をして見せてくれた。博士の意見では、ナイル川の濁水の必要はなく、真水でもよいことを強調していた。薄片を一度ローラーで圧搾してから充分に水を吸わせることが必要であるという。現在、この方法でエジプトではパピルス紙の復元をおこなっている。

パピルス紙に興味のある人は『パピルスの秘密』(大沢忍著、みすず書房、1978年)、『死者の書―古代エジプトの遺産パピルス』(矢島文夫・遠藤紀勝著、社会思想社、1986年)があるので読んでみて下さい。後者はちょっと高価だが、カラフルで見て楽しめる本である。おまけに、パピルス復元キットがついている。しかしこれはあまり期待しないほうがよい。気を付けていると、時々デパートでツタンカーメンやエジプトの文物を画いたパピルスを見かける。

※『葦船ラー号航海記』(ヘイエルダール著、永井淳訳、草思社、1971年)
 『プリニウスの博物誌Ⅱ』(中野定雄他訳、雄山閣、1985年)

聖書中の化学と生物(7)川口基督教会報昭和62年5月17日号より

中島路可教室「聖書の中の化学と生物」④

浮かぶ家の屋根も壁も防水施工された

神はノアに言われた。
あなたはゴフェルの木の箱舟を作りなさい。箱舟には小部屋をいくつも造り、内側にも外側にも瀝青(アスファルト)を塗りなさい。(創世記6章9節)

ゴフェルとはどんな木?こんな木です。

糸杉のある小麦畑
糸杉のある小麦畑

月星夜
月星夜

糸杉と星月夜
糸杉と星月夜

いずれも有名な糸杉の画。 もちろんゴッホです。この糸杉が「ゴフェル」だそうです。
糸杉は地中海のシンボルといってよいほど各地に見られる。勿論イスラエルのどこにでも見られる
ゴフェルとは、神が方舟を造る材料としてノアに指定した素材である。

方舟の大きさに関して、旧約聖書『創世記』は「長さ300キュビト、幅50 キュビト、高さ30キュビト」という。1キュビトを約44.5cmで換算すると、およそ「長133.5m、幅22.2m、高13.3m」となる。

ノアの洪水は、紀元前3000年ころ起こったとされている。
洪水は40日間続き、地上に生きていたものを滅ぼしつくした。水は150日の間、地上で勢いを失わなかった。その後、方舟は現在のトルコの東側アララト山の上にとまった、という。

今回の読み物は中島路可先生の「聖書の中の科学と生物」より「糸杉」。

聖書の中の化学と生物より  「糸杉」

高貴、優性のシンボル、信仰の対象にも
腐りにくく、建材、船材、柩にも使用

鳥取大学名誉教授 中島 路可

いろいろな絵画の中に画かれているので、本物の糸杉は見たことがなくても、殆どの人が知っている。ゴッホの“麦畑と糸杉”(ロンドン・ナショナルギャラリー蔵)はことに有名である。天に向かって真直ぐに、少しねじれながらスリムな形を見せる。糸杉は地中海のシンボルといってよいほど各地に見られる。勿論イスラエルのどこにでも見られる。

友人が実生から育てたという糸杉の苗を庭に植えて、しばらく楽しんだが、雨の豊富な日本では条件が良すぎたのか、どんどん大きくなり、背は高く、横にも広がり、とても糸杉のスリムな形にはならないので、とうとう切ってしまった。せめて根本からでなく、もう少し上の方で切って、北山杉風の仕立てにすることも出来たのに、とくやまれる次第。

植物学的な糸杉の同定はさほどむつかしくないが、聖書の中の「糸杉」が糸杉かどうかはむつかしい。

神の命令でノアが建造した箱舟、創世記6章14節の「ゴフェルの木の箱舟を造りなさい」のゴフェルは糸杉ではないかというのである。新共同訳ではこの木が特定出来ないと考えたのかヘブライ語の音訳で移している。

 新共同訳      ゴフェル
 口語訳       いとすぎの木
 文語訳       松(の)木
 フランシスコ会訳  ゴーファ材
 新改訳       ゴーフェル
 関根訳(岩波)    ゴーフェル材

関根訳では針葉樹(樹木の種類不明との註がある)となっており、訳に問題があることがわかる。

糸杉の学名Cupressus sempervirens L.と記す。学名をつけるとき、その植物の故事、生育する土地、植物の特徴などにちなんで命名する。そして最後にラテン語化した命名者のイニシャルをつけて誰の命名であるかを明らかにしている。さて、このいとすぎ、地中海の東、キプロス島には多数生育し、高く伸びた樹木は高貴、優性のシンボルで、信仰の対象ともされる。キプロスの島名はいとすぎのSypris(L.)にちなんでいるといわれる(山下圭一郎、「シンボルの誕生」64頁、大修館。大槻虎男「聖書の植物」142頁、教文館他)。

しかし、逆にいとすぎがキプロスから由来していると考えられなくもないのだが?

キプロス島はまた銅の産地としても有名で、銅を示す言葉Copper(英)、Kupfer(独)、Cuivre(仏)はいずれもキプロスと関係がある。銅といとすぎはキプロスを通じて結ばれているようである。Cupressusの由来についてははっきりしないところがある。semper(いつも)virens(みどり)の前半は常に、いつもの意味で、後半は緑のことである。いつもみどりの(常緑)杉といった意味になる。L.は植物学者リンネによる命名であることを示している。

糸杉が建築材として用いられたことは
「レバノン杉が家の梁、糸杉が垂木(たるき)」(雅歌1章17節)
「神殿の内壁を……レバノン杉の板で仕上げ、神殿の床にも糸杉の板を張り詰めた」(列王記上6章15節)
「この大いなる神殿に糸杉材をはり付け」(歴代誌下3章5節)に記事から明らかである。
「セニルの桧でお前の外板を造り、レバノン杉で、帆柱を立てた。バシャンの樫の木で、櫂を造り、キティムの島々の糸杉に象牙をはめこみ甲板を造った」(エゼキエル書27章5~6節)は舟材としても使われたことを示している。

これらの糸杉はレバノンの森林から切り出され供給されたであろう。
「レバノン杉のみならず木材についても……レバノンから海に運ばせ……それをいかだに組んで海路あなたの指定する場所にとどけます」(列王記上5章22節)
「ティルスの王ビラムがソロモンの望み通りにレバノン杉と糸杉の材木や金を提供して呉れたので……」(同、9章11節)

これらの森林から切り出された木材の貿易によってソロモンは神殿や宮殿を建築することになる。
「わたしは命に満ちた糸杉。あなたは私によって実を結ぶ」(ホセア書14章9節)
「荒地に糸杉、樅、つげの木を共に茂らせる」(イザヤ書41章19節)
「茨に代わって糸杉が、おどろに代わってミルトスが生える」(同、55章13節)
ここでは糸杉は良きもののシンボルとしてとらえている。

糸杉の材は腐りにくく、ノアのように船材として使ったり、列王記上6章34節には折りたたみ式の扉が示されているが、その他家具や棺なども作られる。エジプトではミイラの柩もいとすぎで作られたという。

いとすぎは樹高15~30メートルに達し、常緑で、葉はこまかいスケールのようになっており、桧の葉に似る。木質は香があり、糸杉からとれる精油は香料、薬用にも用いられる。古代人はこの木から神像をつくっておがんだ。「……木で神を、自分のために偶像を造り、ひれふして拝み、祈って言う。「お救いください、あなたは私の神」と。(イザヤ書44章17節)

聖書中の化学と生物(96)川口基督教会報1999年4月25日号より

>>中島路可教室「聖書の中の化学と生物」はこちらから

中島路可教室「聖書の中の化学と生物」⑤

聖書に書かれた第4のアスファルト
「防水の歴史」はルーフネットの重要テーマです。その中で「聖書と防水三部作」は大きな柱。聖書の中でアスファルトが防水・接着・コーティング昨日を持ったプラスチックとして用いられる記述が3か所あります。創世記のノアの方舟とバベルの塔、出エジプト記のモーセを救ったカゴの三か所です。実はアスファルトが出てくるのがもう一か所あります。それは創世記14.10、ソドムとゴムラ「シデムの谷にはアスファルトの穴が多かったので…」という部分です。アスファルトとは言っても防水機能に着目した記述ではないのでルーフネットではこれまで除外していました。 しかし新潟県黒川村の燃える水の湧出や秋田県豊川の天然アスファルトの露出を詳しく解説している以上、聖書の中に表れる、死海地域の地層の裂け目から出てくるアスファルトに触れないわけには済みません。

死海

先日BS朝日が放送したBBC地球伝説という番組で「地球の裂け目・死海・アスファルト」のキーワードで興味深い放送がありました。番組の狙いは「私たちの足元、大地の下で働いている地質学的な力に着目し、地中海沿岸の歴史や文化を見直し、謎を解き明かしていく」というもの。ナビゲーターである地質学者のイアン・スチュアート博士が最初に紹介したのが聖書に書かれたソドムとゴムラ滅亡の謎。ヨルダンの死海付近の断層はアスファルトをもたらした。ソドムとゴムラの市民は、アスファルトを採取するために死海のほとりに住んだのではないかと仮説を立てる。地震と液状化現象、それに断層から噴き上げるメタンガスの炎が両都市を滅亡させたというのが彼の仮説です

聖書の中の化学と生物より  「死海」

ヨルダン川の水がここで濃縮 濃い塩分にも生物が…

中島路可

海水の塩分濃度は約3.4%で、世界の海水は殆んど一定であう。紅海がわずかに4%と少し高い。河川からの水の流入が少ないのと、乾燥地帯で海面からの水分の蒸散の激しいせいである。人間の血液の塩分濃度は0.9%で、生命が出現した頃の海の塩分濃度と同じで、「海(うみ)」は「生(う)み」に通じており、生命は海で発生したといわれる。さて、聖書にも、しばしば引用される死海は、塩分濃度3.5%にも達し、とても生物は住めそうにない。そこで人々はここを死の海と呼んだ。死海の名称はギリシャ人の旅行家パウサニアス(紀元180年)がPeriegesis5.7、4.5の中で命名し、この名称が定着する。旧約聖書の中では死海は表に示したように、いろいろのいい方で呼んでおり、よく知られているのに、新約聖書にはこの海に関する記述はない。

画像の説明

遠藤周作氏は、死海は旧約の世界であり、ガリラヤ湖は新約の世界であるとのべている(W.E.パックス著、三浦、曽野訳“イエスの歩いた道”234頁、学研)が、イエスの活動した場所はエルサレム以北でガリラヤ湖を中心としており、死海周辺はイエスにとってなじみのうすい土地であったにちがいない。

死海の地理学的或は地質学的な特徴は、海面下400mの世界最低の場所にある塩湖で、長さ80km、巾17km、広さ1020㎢で、一番深い所は約400m(1979年測量)、その成因は西側のシナイ・プレートが南側に、東側のアラビヤ・プレートが北に移動したための「裂け目」であるといわれている。(村山盤、“奇跡の国イスラエル”、55頁、古今書院)

「シデムの谷、すなわち塩の海」(創・14・3)、「シデムの谷にはアスファルトの穴が多かったので……」(創・14・10)や「主は硫黄と火とを主の所すなわち天からソドムとゴモラの上に降らせて、これらの町と、すべての低地と、その町々のすべての住民と、その地に生えている物を、ことごとく滅ぼされた。ロトの妻はうしろを顧(かえり)みたので塩の柱となった。ソドムとゴモラの方、および低地の全面をながめると、その地の煙が、かまどの煙のようにたちのぼっていた」(創・19・24~28)の記事は、「裂け目」、地溝の地殻変動が活発で、火山による噴火や石油の高沸騰点分であるアスファルトが「裂け目」すなわち死海の周辺に見られることを意味している。現在でも死海南部西海岸に温泉の出ている場所は多い。

死海は生物も住まないと考えられ、死海と命名される程、環境は悪いのだが、面白いことにこんなところにも生物がいる。但し生物といってもバクテリアで好塩菌の一種である。Halo bacterium of the Dead Sea という。そういえば、そうだと憶いつく人もある筈であるが、温泉の熱い湯口の所に、とくに露店風呂だと緑色の藻がついていることがあるし、高好熱菌がいたりする。好きこのんでではないが、 ヌルヌルのアルカリ性の所ですら、好アルカリ性菌がいる。高濃度塩水、高温、高アルカリの条件は原始地球に想定されるものでありこれらの菌がどうやって生きているのか、どんな構造をしているかを調べることは、生物の進化の過程や地球上での生命の起源を知る上で重要な学問領域である。赤穂にあった塩田のまわりや、天然塩を入れたつぼや、袋、時には湿った塩そのものが何んとなく赤っぽいことに気付いている人もいる筈である。好塩菌が繁殖しているせいである。

死海は天然の濃縮装置で、ヨルダン川から流れる水はここで蒸発し、長年にわたって土壌からとけ出た塩類が死海にたまっている。原子力の研究に使われる重水も、長年にわたって濃縮のおこっている死海では重水の含有が高く、こういったものを利用するのにイスラエルでは他に見られない化学工業が稼働している。また、高濃度塩溶液の特性を生かしたヒートポンプや太陽熱利用ソーラポンドの研究も死海を中心に行われている。

死海の海水は地球化学的に非常に面白い水であった。御承知のように、死海へはガリラヤ湖の淡水がヨルダン川を経て流れている。イスラエルではこの水を農業や国土の緑化に用い、死海への水の流入が著しく減ってしまった。流入する表層水と、非常に高い濃度の水は殆んど混じる事なく、新しい水だけが蒸発していたのであるが、新しい水の供給の得られない死海は、表面からの水が蒸発して濃度が高くなり、1978~9年にかけて上層水と下層水の混合がおこり、5,600年の年令であった化石塩水は一ぺんに均一になってしまったのである。おしい人類の遺産が失われたのである。(鳥取大学教授)

聖書中の化学と生物(30)川口基督教会報1989年11月26日号より

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中島路可教室「聖書の中の化学と生物」⑥

聖書の中には日本語で「葦」と訳される言葉が何ヵ所か出てくる。その中でも我々にとっては「アスファルトで防水されたパピルスの籠がモーセを救った」という話が重要だ。路可先生は、このパピルスは葦と訳されてはいるが、「ガマ」ではないかと考えている。王様の娘が水浴びする場所なら、葦では堅くて肌を傷つける。さらにあまり背が高くては水面に浮かぶモーセを見つけられない。葦ではなくガマの方がふさわしいのではないか…という話だ。そこで化学が専門の路可先生は、日本では因幡の白兎の傷を癒したことになっているガマの薬効成分を調べてみた。

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聖書の中の化学と生物より  「蒲(がま)」

兵士たちがイエスを「蒲」で叩いた? 薬効の他に、マットなどにも加工

鳥取大学名誉教授 中島路可

聖書の中に、はっきりと、この植物が出てくるわけではない。前回のアシ・ヨシの項で見たように、水辺の草が、どれこれと、はっきり区別されているわけではないので、アシ・ヨシに含めて紹介した方がよかったかも知れないが、枚数のこともあり、水草の一つとして「ガマ」についてのべる。

聖地の沼や池にたいてい「ガマ」が生えており、よく見られる植物である。また聖書の中の二、三箇所で「葦」とされているところがあるが、植物の性質、形、使われ方から、どうも「ガマ」の方がよいかも知れないという程度のことである。

「兵士たちは……イエスを引いて行き、……イエスに紫の服を着せ、茨の冠を編んでかぶらせ、「ユダヤ人の王、万歳」といって敬礼し始めた。また何度も、葦の棒で頭をたたき、唾を吐きかけ……。このようにしてイエスを侮辱した……」(マルコ伝15章16~20節)(同じ話しがマタイ伝27章27~31節にもある。また、ヨハネ伝では棒でたたく個所が、平手でたたいたとなっている。)

この個所の「葦」はただ葦の棒でたたくより、蒲の穂の所でたたく方がもっと感じが出るし、葦の棒では“むち打つ”といった感じがする。

もう一個所、「パピルスの籠を用意し、アスファルトとピッチで防水し、その中に男の子を入れ、ナイル河畔の葦の茂みの間においた。」(出エジプト記2章3節)、「王女は、葦の茂みの間に籠をみつけたので、仕え女をやって取って来させた」(同、58節)。

モーセは、この記事のようにエジプトのパロの娘に救われるのであるが、パロの娘が水浴した所は「葦」では多分茂りすぎて、背も高く、なかなか中に入ってゆくのがむつかしい。また葦の葉は硬く、皮膚を傷つけやすいことを考えると、もう少し背も低く、葉もやわらかなガマのほうが、水浴びをする場所としてはにつかわしいと思うのである。

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古事記の中の大国主命(おおくにぬしのみこと)と白兎の話を御存じでしょう。ワニザメに皮をはがれて赤裸になって泣いている白兎が、大国主命に助けられ、命(みこと)から言われたとおり、真水で身を洗い、がまのほわたにくるまっていると、たちまち、兎はもとの白兎になったという。

この物語には二つの問題点がある。

一つは、白兎というのは大陸からの渡来人で、山陰の海岸にたどりついたが、病気になって苦しんでいる所を、大国主命が助けたという説。勿論、この説に尾ひれがついて、白兎(渡来人)が日本の強い日ざしで日焼けをしたとか、またワニザメとは悪者の代名詞で、白兎の渡来人が岸についた所をワニザメ=無頼の徒に身ぐるみはがされたのだとか、いろいろと脚色された。

もう一つは「がまのほわた」をめぐる薬効についてである。

いろいろな民話、伝承、伝説に庶民の智慧がかくされており、因幡の白兎の神話はガマの薬効を示唆するものである。兎がくるまったとされる「がまのほわた」とは何なのか。

ガマの穂をうっかりとさわって、穂がくずれ、穂の綿毛がそこら中にひろがって困った経験はありませんか。因幡の白兎はこの綿毛にくるまったのだとか、あるいは蒲黄と呼ぶガマの花粉であるとする説など論争がある。

かつて鳥取大学に在職していた折、大学の横に広がる日本一広い、周囲16kmの池(湖山池、湖と呼ぶには水深が浅いので湖の資格がない)に群生するヒメガマを、白兎の故事にならって何か有効成分がないか調査したことがある。ガマの花粉、蒲黄は古くから民間薬としての薬効がある。因幡の白兎伝説は、この蒲黄を止血、傷薬として使ったと想像出来る。しかし、成分を調べた結果は、パルミチン酸のような脂肪酸。パラフィン類が殆んどであった。サントリーの研究グループもガマの花粉をしらべ、25kgの花粉から、わずか1.5mgのティファステロールという植物性ホルモンを見つけたのが、一寸変わったところ。

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ガマ属は一属約15種が知られているが、日本には、ガマ、コガマ、ヒメガマの3種類が分布している。カットで見られるように、ヒメガマとガマ、コガマは雄花(花粉)と雌花(蒲の穂)のつきかたが異なり、雄花を雌花の間に柄が露出していること、全体にヒメガマと呼ぶにふさわしく、ほっそりしている。ガマの葉はやわらかく編んで、マットなどに加工する。けっこう利用度の高い植物である。

聖書中の化学と生物(89)川口基督教会報1996年11月24日号より

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