2014年9月2日 号(№210)
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2014年 長月ながつき 平成26年、昭和89年、大正103年、明治147年
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「光琳かるた」に描かれた6枚の茅葺き屋根
光琳かるた=尾形光琳(おがたこうりん)「小倉百人一首歌留多」には「上の句」に作者の肖像・歌仙像を描いた100枚の札と「下の句」に花鳥風月を配した100枚の札からなります。上の句100枚は歌仙像で、背景は描かれていません。下の句の100枚のうち17枚には、ほんのわずかでも屋根が描かれています。屋根といっても、貴族の館の立派な檜皮葺きから、東屋や門の茅葺屋根まで様々です。
どんな屋根があるのか調べてみると、一番多いのが檜皮葺の8枚、次が茅葺きで6枚、次いで杮(こけら)葺きないしトントン葺きが2枚、瓦葺きらしきものが1枚でした。
その茅葺きの6枚の札の中で最も粗末な屋根が、天智天皇が詠んだ巻頭歌「秋の田の かりほのいほの 苫をあらみ わが衣では 露に濡れつつ 」の取り札に描かれています。
光琳かるたのとり札に画かれた「仮庵の苫」。天智天皇を濡らした苫屋根です。
小倉百人一首 第1番 天智天皇
「あきのたの かりほの庵(いほ)の とまをあらみ わがころも手は 露にぬれつつ」
実った稲を鳥獣から守るために、仮の小屋を作り、見張っている。その屋根が粗末な草葺き=苫(とま)なので、雨露がしのげず衣が濡れてしまう、という歌。雨漏りの歌です。
ルーファーのための百人一首入門。
百人一首に関しては硬軟多種多様な解説本が発行されています。ネット人類のためには:ウィキペディアでは↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E4%BA%BA%E4%B8%80%E9%A6%96
秋の田の…の歌の解釈はさまざま。例えば杉田圭のベストセラー「超訳百人一首」(メディアファクトリー2010.8.14刊)の現代語訳で。
「あきのたの かりほの庵(いほ)の とまをあらみ わがころも手は 露にぬれつつ」は、
「ぼくは働きマン 雨で服が濡れても乾かすヒマはない 今日も夜通し田んぼのボロ小屋で仕事中」
となります。
百人一首巻頭のこの歌を詠んだ天智天皇を祀る近江神宮は、「かるたの聖地」といわれています。その歌が雨漏りの歌だった。ルーフネットと日本防水の歴史研究会は、天智天皇は、日本書紀に記された「燃える土」=アスファルト(当時の用途は防水・接着剤だった)を献上されたこと、そしてこの雨漏りの歌を詠んだこと、この2点において、「天智天皇は防水の祖神である」と主張しています。
百人一首は本だけではありません。
歌留多コミック「ちはやふる」のヒットとそのアニメのブレイクでかるたブームに拍車がかかり、百人一首の巻頭歌が天智天皇の歌であることから、天智天皇を祀る滋賀県近江神宮は、かるたファンにとって聖地となっています。
天才少女・千早を主人公とする末次由紀の人気コミック「ちはやふる」。この号に、近江神宮がかるたの聖地として登場します。
主人公の千早達が腰かける、後ろは近江神宮の山門。各種のキャンペーンポスターが、観光スポット、駅、電車の中に貼られています。
嘉永百人一首より。(JWHA日本防水の歴史研究会所蔵)。
稲の実りを心配し、粗末な屋根の雨漏りに心を配る天智天皇はRC建築のメンブレン屋根防水・瓦・板金・桧皮・杮葺き・茅葺きなどすべてのルーファーにとって大事な存在であり、その天智を祀る近江神宮は特別な存在であると思いませんか。今、近江神宮の本殿は茅葺、拝殿その他は銅板葺、この歌にちなんで、小さくとも良いからかるたに係わる施設に茅葺の屋根が欲しいところです。
尾形光琳は尾形 光琳(おがた こうりん、万治元年(1658年) - 享保元年6月2日(1716年7月20日))は、江戸時代の画家。工芸家。後代に「琳派」と呼ばれる装飾的大画面を得意とした画派を生み出した始祖であり、江戸時代中期を代表する画家のひとりです。国宝に指定されているこんな絵は小学校の教科書にも出ていたはずです。
光琳に関しては:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BE%E5%BD%A2%E5%85%89%E7%90%B3をどうぞ。
ここで、美術史学者でMIHO MUSEUM館長の辻 惟雄(つじ のぶお、1932年6月22日 - )東京大学名誉教授は光琳を「艶隠者(やさいんじゃ)」と呼び、「貴族的・唯美主義的作家であり、宮廷風に美麗で、日本的かわいらしさの美学を強く打ち出した」。と評しています。
辻さんは、名古屋市生まれ。東京国立文化財研究所美術部技官、東北大学教授、1985年東京大学文学部教授、1993年定年退官、名誉教授、国際日本文化研究センター教授、1998年多摩美術大学学長、千葉市美術館館長を務めました。
著書『奇想の系譜』で、従来美術史では評価が高くなかった岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳をとりあげ、「奇想の画家たち」として再評価をうながした人です。時代や分野を超えて存在する日本美術の特質として、「かざり」「あそび」「アニミズム」の3つを挙げています。これが「日本的かわいらしさの美学」につながるのでしょう。
さて天才 尾形光琳が 究極のかるたの1番札に描いた茅葺き。これにそっくりな茅葺き屋根を見つけました。
日本茅葺き文化協会の会報「茅ふきたより」第2号に、西日本茅葺き民家保存研究会の上田進氏が、茅ボウトウのイメージから展開したモニュメントを紹介していました。
カヤボウトウに足を付け、大きくしたら、こうなりました、という感じです。右は初めにみんなでつくったもの、逆葺きで、光琳かるたのイメージそのままです。左は「あまりにきたないから」とプロの茅葺職人さんたちが手を入れ、きれいにしてしまったもの。
ルーフネットは8月20日筑波市北条の里山建築研究所をたずね、安藤先生に茅葺屋根の歴史、茅葺職人の現状をお聞き所ました。
インタビューの最後に先生は「茅葺職人はアーティストである。屋根の上で『歌舞く』(かぶく)アーティストなのだ」と、おっしゃいました。屋根の上で歌舞く茅葺職人と、辻氏が指摘する光琳の奔放なイメージとが、どこかで響きあう気配を感じました。そのきっかけが光琳かるたの最初の札、であるというもの、とてもうれしい巡り合わせです。
さてこの光琳かるたに描かれた17 の屋根について、茅葺き屋根、民家に詳しい日本茅葺き文化協会代表で筑波大学名誉教授・安藤邦廣先生にコメントを頂ながら紹介してゆくことになり、準備中です。インタビューと合わせて、おたのしみに。
2014/08/24(日) 09:58:08|屋根|
「BOUSUIデジタルアーカイブ」防水歴史図書館
我が国の防水の歴史を考察する上でどうしても欠かすことのできない文献が何冊かあります。
防水歴史図書館(BOUSUIデジタルアーカイブ)では、そんな文献を1冊ずつ選び、本が書かれた当時の様子、おもな内容、その本のどこが「すごい」のか、現在生きる人たちにとって、どんな価値があるのか、それぞれの資料を担当するキュレーターが、時には執筆関係者への取材を交えて、分かりやすく解説します。
- 主な収録項目
特集ページ
- 資料第壱号「アスファルト及びその應用」
- 燃土燃水献上図を探ねて
- 「聖書と防水」3部作
- 「日本書紀と瀝青」
- 日本初のRC橋と琵琶湖疏水
- 『選択』に連載中の紺野大介 清華大招聘教授とルーフネット
- 「お初」の上七軒だより
- 日本橋改修工事
- 武生余話
- 今でも「燃える土」は見ることができる
- 「日本最初のアスファルト舗装の話」
- 板金いま、むかし -鴨下松五郎氏に聞く-
- 「塗材からみたコンクリート」
- 防水の博士たち
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